日本人の留学生数は年々伸びており、年間で20万人が留学していると言われる現在。ネットやSNSではさまざまな形で自身の留学体験を発信する情報が溢れています。
しかし伝えられている魅力の多くが、価値観が変わる、視野が広がるなど漠然としており、留学したことがない人にはその価値が想像しづらいですよね。
そこで本インタビューシリーズ「留学を振り返る」では、留学生が自身の留学経験を振り返り、その後の人生がどう変化したのか、変化を与えた留学中のきっかけはなんだったのかを探ります。
今回は留学生から語学学校のマネージャー、そして現在は留学カウンセラーとして活躍しているジョセフさんに、自身の経験と他の留学生を見て感じた留学の価値を聞いてみました。
ジョセフさん
留学カウンセラー。舞台俳優を目指したが挫折し、フィリピン留学を経て、そのままバギオにある語学学校で現地スタッフとして5年間を過ごす。帰国後、株式会社スクールウィズへ入社し、現職に至る。
[目次]
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今回のインタビューはオンラインにて行いました。
漠然と海外を意識し始めたのは大学生の頃です。当時、作家の高橋歩さんの本が流行っていて、本の影響を受けて僕の周りにも実際に世界一周へ出る友人が2、3人いました。
僕自身も世界一周へいつか行ってみたいとは思ったものの、当時は全く英語が話せず、まともにコミュニケーションが取れなくては面白い経験にならないのではないかと考えていました。
特に強いモチベーションはなかったので、結局大学にいるうちに世界一周へ行くことはなく、社会人生活を迎えることになります。
ただ社会人になってからも世界一周自体は頭の中に残っていて、英語力をつける手段として、徐々に留学を考えるようになっていました。
当時ちょうどフィリピン留学を紹介する本に出会い、欧米圏と比べ費用が低い留学先としてのフィリピンに魅力を感じ、留学が一気に現実的になった記憶があります。
実は僕、大学を卒業してから役者の道に進んだのですが、25歳の時に訳あって辞めたんです。それからは、やりたいこともなくだらだらとアルバイトをする日々を送っていました。
ただそんな日々を2、3年も送ると、だんだんとフラフラするのをやめてやりたいことをやろうという気持ちが湧いてきたんです。
「気づけば27歳、切りよく30歳に世界一周から帰ってくることを考えると、行くなら今しかない。」
ちょうどその頃資金が貯まったので、25歳以降目標を失っていた僕は、世界一周というやりたいことを実現するため、フィリピン留学へ飛び立ちました。
いや、実は結局世界一周へは行かなかったんです。笑
フィリピンに着いてからは、他の留学生と交流しながら英語を学ぶ日々が続きました。
韓国人、台湾人、モンゴル人、フィリピン人。これまで話したことない国籍の人たちと毎日会話する経験なんてなかったので、すごく楽しかったです。
ただ、留学へ来て間もない僕の英語力では楽しめる会話に限界があり、もっと自由に英語を使い交流を楽しみたいという欲が次第に湧き出しました。
当時は毎日机の上でカリカリ勉強していて、それなりに勉強に集中していたんですが、全然話せるようにならなかったんです。
そこで周りにいる英語が話せる留学生を見ていると、何より英語を話していたんですよね。
「話せるようになるには話すしかない」。そう思ってからは留学期間を延長して、とにかく英語を話すことを意識しました。
韓国人のグループに飛び込んだり、日本人といても英語で話したり、韓国人の女の子と付き合ったり、とにかく機会を見つけて話していましたね。
ちょうどそんなことをしていたタイミングで、語学学校のマネージャーの枠に空きが出たんです。
学校マネージャーであれば、教わるのではなく仕事を進めるツールとして、より実践的な英語を学べます。これはチャンスと思い、世界一周へは行かず学校マネージャーとして働き出すことにしました。
その頃には世界一周へ行こうという考えは頭の中にはほとんどなくて、特に未練は感じませんでした。
僕にとって世界一周はその程度だったんですよね。留学へ行く前は目的に考えていたんですが、結局は目的になりませんでした。
今振り返ると、世界一周は目的を見つけるための手段だったんだと思います。なので準備段階で来た留学先でやりたいことを見つけてからは、どうでもよくなりました。
休日を利用して学校の先生たちと出かけるジョセフさん。
大学では教育学部に在籍していたこともあり、人に何かを教えることは好きだったんです。
振り返ると高校生の頃も部活に熱中していました。自分が知っている知識、経験を後輩に伝えて、後輩のレベルが上がることが嬉しかったんですね。
熱中しすぎて高校3年の1月まで部活をしちゃって、浪人することにはなったんですけどね。笑
ただ、大学を卒業してフィリピンで学校マネージャーになるまで、自分が人に何かを教えることが好きだというのは気づいていませんでした。
芝居を辞めたのは誰かを幸せにしている実感がなかったからで、その後2、3年は自分が何が好きなのかもはっきりせず、ただモラトリアム期をだらだら過ごしていました。
なので留学生から学校マネージャーになり、自分の留学した時の経験を伝えたり、留学生と先生の橋渡しをしていた日々は、自分の好きなことに気づけたきっかけだったんです。
学校マネージャーの仕事に熱中できたのは、学校のあったフィリピンのバギオという街も大きく影響しています。
僕が留学していたフィリピンのバギオは、首都マニラのあるルソン島中部に位置する街で、マニラからは車で6時間ほどの距離にある高原都市です。
留学するなら日本人が少ない環境が良いと考えていて、加えて治安が良い、涼しい気候などの条件で探していたら見つけたのがバギオでした。実際に留学へ来てみると街はコンパクトで利便性が高く、街並みもおしゃれですごく気に入りました。
そして学校マネージャーになってからは、もっと日本人に来てほしいと思うようになったんです。
当時フィリピン留学といえばセブ島という認識が日本国内では強く、バギオの語学学校は基本的に韓国人留学生が集まる場所でした。
ちょうど学校マネージャーになったタイミングで、教育水準の向上などを目的としたBESA(Baguio English Schools Association)というバギオの語学学校協会の存在を知り、僕は他の語学学校のマネージャーと繋がり、協力してバギオという街を留学先として選ばれるため盛り上げるようになりました。
留学先としてのバギオの盛り上がりは、これまで日本人留学生が集まらない学校に日本人留学生が来るようになって加速しました。
当時バギオで日本人留学生が集まる学校は2、3校しかなく、十数校あるBESAの語学学校には、ほとんど日本人留学生がいない状態でした。
そこにしっかりと受け入れる基盤を整える日本人マネージャーが入るようになり、日本人留学生数が増加、今では100〜200人というキャパの中で日本人が2〜4割ほどの学校が多いです。
いや、帰国は事情があってのことでだったので、モチベーションが下がったことが原因ではありません。
ただ、僕が学校マネージャーを辞める2019年頃には、日本人留学生もある程度呼び込みに成功し、台湾人やベトナム人などの呼び込みにBESA各学校が方向を変え出した頃でした。
当時一緒にバギオを盛り上げていたメンバーも半数は帰国していたので、転換期だったのは事実です。
バギオでの職を離れるのは全く抵抗がなかったわけではなく、それほど学校マネージャーという仕事はなんの違和感なく続けられました。
「できることなら日本でも似た仕事がしたい」。そこで見つけたのが今の留学カウンセラーという職業でした。
バギオで暮らす人たちに愛されるバーナムパーク。ゆったりとした時間が流れており、休日はピクニックを楽しむ人も多い。
留学は集中できる土地に留まって自分の学びたいことに打ち込める効率的な手段です。
日本で英語を勉強するとなると、どうしても生活や仕事に注意を向けないといけない。でも留学に行けば、一旦それらを気にせず英語学習に集中できる。
金銭的な面でも言えますが、英語学習という体験に全ての注意を向けて取り組めるという意味でも、留学は贅沢な体験だと感じます。
そして何より、留学では香りや触感、味など、留学先の生活をまさに五感で感じる中で学びを得ることができ、それこそが留学の価値だと考えます。
海外は日本とまるで違う生活環境です。匂いや気候、人との距離感など日本で慣れ親しんだものとは違うものに触れることで、新しい自分の感覚に出会う機会になります。
「この辺何か香る」
「やけに暑いな」
「なんだか距離感が近い」
そういった感覚が出現することで言葉が自然と出てくる。出てきた言葉を通じて知らない自分に気づける。
海外という生活環境が日本とまるで異なる場では、そういった日常生活でのズレが生まれやすく、言葉も出てきやすいです。
その結果、言葉を話すチャンスが増え、もし言葉にしたものが間違っていれば正しい表現を学ぶ機会になり、合っていれば自信を持てるようになります。
語学留学では、語学学校の中と外で場としての機能が大きく異なります。
語学学校の中ではカリキュラムから授業でのやりとりまで、学校側で設計されたもので、その環境の中で得る感情は何か予定調和のような印象があります。
一方で学校から一歩外の出た生活空間では、誰も自分を知らないし興味を持ってくれない世界が広がっています。そういう自分に興味を持たない人とどう接するかを学ぶ場だと思います。
設計されていない環境へ飛び込むことは、単純に怖いことです。
学校での学習が順調な人でも、想像以上に自分の言いたいことが伝わらない。そういった現実に触れながら、それでも外の世界に自分を合わせていく練習が、日本ではない生活空間で言葉を学ぶ体験の価値ではないでしょうか。
僕が感じる語学留学で学校へ通う魅力は、塀に囲まれた空間の中で安全に英語を学べることです。
学校という共通言語があり、留学生同士というコミュニティがあるので、話すことに不安を抱かずに相手との会話を練習することができます。
そしてある程度練習を積むと、「そろそろみんなで外へ出てみようか」という気分が醸成され、外の世界で使うモチベーションが湧いてきます。
英語を話す自信は留学へ来た時には持っていなかったので、そこは留学中に作られたんだと思います。
ただ、なんとかなるだろうと根拠のない自信は留学へ行った当初から持っていて、現地へ着いて2週間目には、一人で街に出て地元の人が集まるレストランでご飯を食べていましたね。笑
とにかく行き方と帰り方さえ知っていれば、この小さな街ならどうにかなると思いました。
もちろん英語力は備わっていないので、基本は学校での勉強に集中していました。なんで日本にいるうちに勉強してこなかったんだろうと後悔しながら、毎日夜中の1時まで机に向かっていた記憶は強く残っています。
そうして徐々に英語力をつけ、先生とディスカッションできるまでになったのですが、その時初めて「僕は英語を学んでも話したいことはなかったんだな」と思ったんです。
話したいことがあれば、自然と言葉が出てくるんですよね。逆に言いたいことがないときは全然言葉が出てこなくて、どうやっていうんだろうと悩んでしまう場面が多々ありました。
そのことに気づいてからは、街へ積極的に出るようにして、話したいシーンを覚え、それを学校の先生に伝え、表現を教えてもらう。
それをやっていったら英語に自信を持てるようにありましたね。
学校マネージャーをしている時に、一度カナダへ遊びに行ったことがあります。治安が良く、気候も穏やかな印象のあるカナダへは、昔から憧れを持っていたんです。
ただ空港に降りて、真っ先に感じるものが何もありませんでした。
街を歩くとどこからか変な香りがして、食べているものもあまり魅力的には映らない。
明確な理由はないのですが、自分の中でこの土地に入り込もうと思うモチベーションが全然湧いてこなかったのはたしかです。
いや、学校マネージャーをしていた頃に出張で、台湾やベトナムへ行ったこともあるのですが、そこでは気分が高揚したのを覚えています。
立ち並んでいる屋台、歩道に椅子を並べて即席で作るコーヒーショップ。具体的にどこがいいのかをパッと言葉にはできないのですが、直感的にいいと思える風景が台湾やベトナムにはありました。
改めて自分の感性について振り返ると、僕はもともと埼玉県の田舎で育ちで、小さい街での生活がしっくりくるんですよね。一方で都心には住もうとは思えない。
だからカナダでの体験は、漠然と憧れとして持っていたカナダのイメージに、いきなり高層ビルが立ち並ぶバンクーバー、トロントの風景をぶつけられたことが原因だったかもしれませんね。
自分が普段過ごしていて心地よいと感じる環境をもとに選ぶのが良いと思います。
旅行とは違い、留学では現地に留まり生活を送ります。究極は留学へ行かないと自分に合っているかはわからないですが、それではそもそも留学先が選べない。
だからこそ、日本での生活経験を踏まえて、自分が心地よいと思う環境の要素を見つけ、その要素がある留学先を選ぶことが大事だと思います。
躊躇なく人に話しかけられる、あるいは気になったお店にすっと入れるような直感的に行動を促してくれる環境が、結果として自分の話したい気分も醸成する。
5年間バギオという街に留まり続けられたのも、街の小ささをはじめ、さまざまな要素が僕の直感を支えてくれていたからだと思います。
【編集後記】
快活にバギオでの経験を話すジョセフさんからは、バギオで何をしたか以上に何を感じたかが留学の価値を決める、そんな姿勢を感じました。
いかに上手く・早く上達するかを目的とする印象の強い国内の英語学習手段には感じづらい、伝えたい言葉を見つける留学。ジョセフさんの留学には、世界一周などどうでも良くなるほどの、自分の感覚を言葉にする楽しさが眠っていました。
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