「留学をきっかけにキャリアアップ、キャリアチェンジをする」
日常とは異なる環境に身を置き、さまざまなバックグラウンドを持つ人と交流する日々を送る留学では、それまでの人生では考えていなかったようなキャリアの選択肢を持てたり、今している仕事を新たな視点から捉え直したりする機会になります。
しかし実際に留学してみないと、具体的に留学から何を学びや繋がりとして持ち帰り、帰国後のキャリアに活かせるか想像しづらいかと思います。
そこで本インタビューシリーズ「留学後のキャリアを考える」では、留学生が帰国後にどのようなキャリアを歩んだのか、留学がキャリアに与えた価値を尋ねます。
初回は学生からフリーランスのライターとして働くようになった森木さんに、留学を機に変わった自身の働き方について伺いました。
森木あゆみさん
1992年生まれ、京都府出身のフリーライター。大学卒業時に就職を蹴って、24カ国・50都市の世界一周を実行し、旅の途中からそのままライターへ。
オーストラリア留学とセブ島留学の経験あり。現在は中級者向けのライティング講座開講を主催している。
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「就職しても会社が倒産するかもしれない。だったら自分の身が自由なうちにやりたいことをした方が後悔しない人生が送れるのではないか?」
配属先を決めるため、慣れないスーツを着て内定先に向かう電車の中で、ふとよぎった違和感にかられ森木さんは就職を辞退しました。新卒での就職をやめてまでやりたいこと、森木さんにとって、それは世界一周でした。
内定辞退の半年前、森木さんは夏休みを使って四国への一人旅をしていました。そこでたまたま入った雑貨屋で世界一周本を発見。一度にさまざまな国を訪れ、自分のやりたいことに忠実な世界一周者の生き方に心惹かれたそうです。
ただ、その時すでに大学4回生。とりあえず就職活動をし内定はもらいましたが、旅への想いは日増しに膨れ上がり、就職しないのは自身のキャリアにとってマイナスなのではないかという不安と、旅へ出たい自身の気持ちの間で揺れ動きます。
そして大学を卒業する1週間前に、意を決して内定辞退を決した森木さんは卒業後にアルバイトで資金を貯め、1年後に世界一周の旅へ出ました。
旅先のマレーシアにて。
ボリビア・ウユニ塩湖にて。当時一緒に旅していた友人と映る森木さん
旅中はさまざまな人と出会い、多様な価値観に触れた森木さん。8ヶ月の世界一周を経て、自身の考え方が大きく変わったと話します。
「世界一周をしてみて、どこへ行っても自分は自分なんだと実感したんです。それまでの私は人見知りで、世界一周へ行けばポジティブな性格に変わるんじゃないかと期待して旅へ出ました。
でもどこの国へ行っても、人見知りしてしまう部分やネガティブな考えを抱く部分は会話の中で出てしまいました。『私は変わらない』。ならそんな私とうまく付き合っていく方法を探そうと思うようになりました」
旅を通して自分を段々と捉えられるようになってきた森木さん。しかし旅中には常にお金が足りず、予定していた日程を変えて、途中で一度だけ一時帰国もしました。
もともと出発時に20万円ほどしかなかった資金では、当然世界は回れず、途中で一時帰国しアルバイトでお金を稼ぎ、どうにか旅をこなしていきます。
しかし、とうとう通過点のトルコに差し掛かったところで残金が5万円ほどに。帰国する航空券も買えない状態にあった森木さんは、出発時から気になっていたクラウドソーシングを使ってみることにしました。
「件数が多い執筆かデザインかで案件を迷ったんですが、デザインは技術がないとできないかなと思う一方で、ライターであれば日本語が最低限できればできるかと思い始めました。」
トルコで滞在していたゲストハウス。執筆もこの部屋で行っていたそうです。
当時は執筆経験はなかったものの、世界一周中だったこともあり、海外の旅行先を紹介する記事を何本も執筆し、無事に航空券代を稼ぎ帰国。日本での生活に戻ってからはライター業を本格的に始めていくことにしました。
世界一周から帰った森木さんは、やりたいことを実現できた満足さを感じると同時に、人見知りをしてしまうなど、やや不完全燃焼さが残ったそうです。
そんな気持ちを片隅におきながらも生活費を稼ぐため慣れない執筆の仕事に取り組むこと半年、今度はフィリピン留学へ行く機会が転がり込んできます。
見つけたのはフリーランスを養成する企業が主催するフィリピンでの留学プログラム。英語学習に加え、海外で働く経験を積む中でノマド生活を実践するものでした。
フリーランスとして働き出して半年間、一人で黙々と仕事をこなしてきた森木さんにとって、プログラム内容はもちろん、参加者とのつながりの中でフリーランス仲間が作れる機会にかなり魅力を感じたそうです。
加えて、世界一周での後悔もあり、今度こそは自分のしたいことをやり切ると意気込み参加を決めます。
3週間のプログラム中、ライターとして働きながら英語学習をこなす森木さん。1日の中で1コマ50分の授業を3〜4コマを受けつつ、空き時間に予習復習をして、仕事をしてと大忙しの留学生活だったと話します。
授業を受けていた先生と映る森木さん
卒業式を迎える森木さん(前列右から2番目)
一方で、それまで実践したことのない海外生活を送りながら仕事をこなすノマドとして働き方は自分に合ったようで、その後の働き方を考えるきっかけになったそうです。
「プログラム自体は第一弾ということもあり、参加者は多くはなかったんですが、もともとやりたいと思っていた『旅をしながら働く』を実践できたことでノマド生活への一歩を進めた感覚が持て、その後の働き方が変わりました」
加えて当時流行っていたライブ配信など、執筆以外の活動にも精力的に取り組んだ森木さん。日本人、かつ同年代が多い環境では、人見知りな性格やネガティブな考えを持ちながらもスタッフや他の参加者の協力もあり、ライブ配信をしたり、他の留学生へインタビューをしたりできたそうです。
2017年4月から始めたライターとしての仕事も気付けば4年が過ぎ、徐々に心持ちが変わったと話す森木さん。
もともと差し迫った理由からライターを始めたため、理想とする将来像を抱く余裕もなくスタートしたキャリアですが、フィリピン留学を経てノマドとしての生き方を学び、旅をしながら働きたいという気持ちがぼんやりと持つようになりました。
自身の働き方に対しても、ライターとして駆け出した当初は1年後に生き残れていれば良いと思っていたものが、今は2、3年後を考えられるようになったと話します。
フリーランスとして生きる将来像が徐々に作られていく。転換点はライターとして働き出して3年間直面し続けた、月収が10万円台を抜け出せない問題でした。
ライターを始めた当初は根拠のない自信に後押しされ執筆を続けてきた森木さんですが、収入という現実の壁に直面し、それまでの考え方を改め、自身が提供できる価値を模索したそうです。
「ライターとして駆け出しの頃は執筆力があまりなく、依頼主から見ると劣っている部分が多いです。その中で、次のような部分が仕事をクライアントさんが感じてくれている自分の価値だと考えました。
『納期を守る、メッセージを早く返すなど当たり前のことを徹底する』。
最近になって知り合ったフリーランスの知り合いに話を聞くと、意外とそういった基本的なことが徹底できていない方が多く、結果的にそこが差別化できていたのかと思います。」
当たり前を徹底する。そこから徐々に仕事の幅が広がり、収入も上がっていったそうです。
フリーランスになって3年ほど経った頃から安定して収入を得ていた森木さんが、自身の働き方の大きな転換点と話すのが昨年(2020年)の世界的な新型コロナウイルスの蔓延に伴う依頼案件の停止です。
当時の森木さんは旅行や留学系の執筆を主にしていたこともあり、収益源が絶たれた海外系の事業者からの案件は一気に止まってしまいます。
4年間のライター歴の中で、初めての経験。しかし、状況に驚いている隙はなく早く収入源を確保しなければいけない。
そう考え始めたのが中級者向けのライティング講座開講でした。
もともと仕事で記事の編集をすることも多かった森木さん。たくさんの原稿を読む中で、誤字脱字がそのままあったり、てにをはがおかしかったりと、最低限の基準をクリアできていないライターが多いことに気づきました。
修正部分が提出前に整っていれば編集を担当する方の負担は減らせ、ライター自身も単価を上げやすくなるので、みんなが良い状態になれば良いなと思った森木さん。加えて挙げた理由には、自身がかつて直面した課題感の克服がありました。
「昔の自分が求めていた講座を作りたかったんですね。繋がりが作りづらいフリーランスは知り合いが増えれば仕事は暮らし方の不安が解消でき、ライティング力の改善など、課題に向き合えるのではないかと考えています。」
実際に講座を始めると、月収を目標の20万円に上げたり、編集など仕事の幅が広がったりする参加者が出てきて、確かな効果を実感する声が多く集まりました。
森木さんが開催するライティング講座の様子
講座参加者と森木さん
かつての森木さんも直面した月収が10万円台から伸びない問題。解決の糸口は書きたいジャンルに自覚的になることだと話します。
「自分の好きなジャンルの執筆をおすすめしています。駆け出しのライターはお金のために興味はないけど需要のある執筆案件に手を出しがちです。
私も以前は好きな旅行や留学の案件ではなく、美容や脱毛など募集数の多い執筆案件を探していたのですが、どうしても書くスピードが遅くなってしまい、書くこと自体がだんだんと嫌になってしまい、執筆スキルを上げられない。
だからこそ一旦案件を見直し、自分の好きなジャンルに絞って営業をかけることが執筆を続けるコツです。」
フリーランスは自由に仕事を選べる分、どんな仕事を経験するかで積み上げられるものがまるで違ってくると話す森木さん。だからこそ、早い段階で収入を上げるためには、より好きなことを自覚することが大事です。
仕事の内容に加えて、森木さんはフリーランスには仲間の存在が欠かせず、自身の講座でも繋がりを提供できる場を作りたいと話します。
「相談できる人、雑談できる人、何より同じような働き方をする人が近くにいるだけで、気持ちが安定して、仕事に対して前向きに考えられることは多いと思います。」
実際に森木さん自身も、留学先で作った繋がりの中で、仕事を紹介したり、逆に仕事をもらったりというやりとりが生まれたと話します。
森木さんが運営されているライター講座も、留学先で出会った方が提供しているマーケティング講座の中で形作ったもの。そして現在はそのマーケティング講座で講師という立場で仕事をしている。
留学先で手に入れる繋がりや人脈は留学の一つの価値ですが、年齢や業界・業種のバラバラな人が集まる留学先では、帰国後の繋がりが必ずしも維持できるとは限りません。
一方でフリーランスの森木さんが話す留学先での繋がりは、相手が何をしている人なのか、何に困っているのかなどを、人との繋がりを通して考えることで、仕事という新たな結びつきができることもあります。
留学先にあったつながりの場、それを森木さんは自身の講座の中で形作っている最中でした。
コロナ禍の現在、副業やフリーランスでライターの仕事をしてみたいと考えている方も多いはず。最後にこれから執筆を仕事にしようと考えている人が持っておくべきスキルを森木さんに伺ってみました。
「相手を不安にさせないなど信頼性を築いていくことが、スキルとしては大事になるのではないかと思います。
あとは考え方も大事で、フリーランスでやっていくには、ネガティブな自分を受け入れながら、うまく付き合っていく方法を考えた方がいい。フリーランスは営業から商品管理、経理まで一人でやらないといけませんが、無理をするよりありのままの自分の武器を見つけた方がうまくいくこともあります。」
ネガティブな性格を抱えながら、それでもその性格と付き合っていくと決めた世界一周。その後行ったフィリピン留学では、自分をわかっていたからこそネガティブさとうまく付き合い、多忙な留学生活を乗り切れました。
コロナによる困難に直面しても、状況をポジティブに捉え、それまでやりたいと思っていたことを実現する機会と捉えられたのは先ほどお伝えした通りです。
少しでも多くの駆け出しライターを助けたいと話す森木さんのライティング講座は取材時すでに7期を募集しており、ますますの発展が期待されます。
やりたいことを絞り価値を高めていく。4年前に漠然としてモヤモヤを抱え日本を飛び出した森木さんは、今日本各地で暮らすライターさんに繋がりを提供する存在になっていました。
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