こんにちは。髭猿(Instagram:art_yusuke)と申します。僕は2017年9月から、アメリカ・ロサンゼルスにあるCalifornia Institute of the Arts(カルアーツ)でキャラクターアニメーションを4年間学びます。
本連載は、アートのバックグラウンドが全くないサラリーマン出身の僕が、アーティストとしてどこまでいけるのかというドキュメンタリー的な物語です。
僕が留学しているカルアーツは2期制で、現在は後期の後半に差し掛かっています。もうしばらくすると、恐怖の学期末が訪れる……。一般的に学期末と言えば、大量のレポートがあったり、テスト勉強に追われたりするイメージがあります。
しかしここは美術大学。アメリカの美大の学期末ってどんな感じなの?試験は?!課題は?!と気になる方も多いと思います。ということで今回はカルアーツ1年目の学期末試験・課題内容をご紹介したいと思います。
なお、アメリカ留学についての全般的な情報は下のページでまとめているので、具体的な検討を進めたい方はチェックしてみてください。
アメリカ留学
まず、カルアーツのキャラクターアニメーション科は、筆記試験が一切ありません。他の学科や全学部共通の一般教養科目のことは分かりませんが。でもそもそもカルアーツには筆記試験を受けられるような講堂がないので、他の学科でも無さそうな気がします。
そもそもキャラクターアニメーション科の授業は、
・出席数(4回以上の欠席で単位を落とす)
・作品(毎週の課題)
・授業への貢献度
で成績を判断されます。授業への貢献度は授業中の発言数等で判断されますが、ここをシビアに見ている先生は少ないです。筆記試験がないので、最後の授業が終わったらそのまま夏休み or 冬休みに突入となります。筆記試験がないのは本当に嬉しいです。
日本で大学生をしていた頃、机にかじりついて六法とにらめっこしていた日々が懐かしい。
筆記試験はないですが、カルアーツは学期末になるといわゆる「Final」と呼ばれるスペシャルな課題がでます。課題は毎週出るわけですが、Finalはもちろん通常の課題よりも難易度が高く、一筋縄ではいかないものが勢ぞろい。
カルアーツの1年目秋学期ではFinalが5個ありました。それぞれ具体的に説明していきます。
パイプラインテストとは、これから制作するフィルムから任意のカットをひとつ選び、その部分だけアニメーション、バックグラウンド、ペイント等を一通り完成させるというもの。
パイプラインテストをすることで、このシーンでこれくらいの稼動がかかるなら、エンディングはもっと大変だろうな……、でもオープニングは簡単そう!みたいな感じで、全体の作業感を予測することができます。
これは自分のリソース内で期限までに完成させることができるか否かを判断するために非常な大切な作業です。そして必要に応じて、シーンを実現可能なものへ変更していく、そういった役割があります。
アニマティックは、作成済のサムネイルやストーリーボード(日本で言うところの絵コンテのようなもの)の各コマに尺を振っていき、実際のフィルムの長さの中で、各シーンの長さやタイミングが適切か判断するためのものです。
1年目の課題のフィルムは1分半以内と決まっているので、ここは見せ場だから尺を長く取りたいけどそのためにはこのコマを削らないとダメだな、とかを考えます。ちなみに僕はなかなか納得がいかなくて、アニマティックを8回以上作り直しました・・・。
「Maya」と呼ばれる3Dアニメーションを制作するソフトを使用し、ピタゴラスイッチでおなじみの、運動が自然に連鎖していく装置を作り、アニメーションをつけるという課題です。
Mayaでモデルを作り、よりリアルに見えるようにそれに質感表現を施し、アニメーションをつけ、最終的な画像データを生成し(レンダリング)、それを繋げて動画ファイルにするという一連の作業が求められます。
僕を含め、初めてMayaを触った人にはなかなか大変な課題でしたが、Mayaでできる基本的な事を網羅できたので非常にためになりました。
ちなみにあのピタゴラスイッチの装置は、アメリカではルーブ・ゴールドバーグマシンと呼ばれています。漫画家のルーブ・ゴールドバーグさんが発明した装置らしい。
これまたMayaを使い、サウスパークで同じみの、切り絵を使ったストップモーションのようなアニメーションを作るという課題です。
「グラフエディター」と呼ばれる、アニメーションの動きをグラフ化したツールの使い方に慣れようという先生の意図があるようでした。この課題は皆ギャグを入れたりしていて、作品の上映会はかなり盛り上がりました。
これは2Dアニメーションの課題なので、自分のフィルムとは別です。キャラクターと設定は与えられていて、それに沿って「TVpaint」というソフトを使用し2Dアニメーションを作りました。
ちなみに与えられた設定は、キャラクターがマジシャンの帽子の中から何かを取り出し、それに対してリアクションを取るというもの。
キャラクターの感情とそれに伴う表情の移り変わりに重きを置いた課題で、
最初の表情
→ 帽子に興味を持つ
→ 帽子の中から何かを取り出す
→ 取り出したものにふさわしいリアクションをする
とシンプルなストーリーながらも、キャラクターの感情を細かな描写で伝えることが必要でした。
アニメーションを学び始めて数ヶ月の人間にとって、これらのFinalをまとめて一気に終わらすのはなかなか大変でした。ただ、欠席が3回以下でとりあえず全ての課題を提出していれば、課題のクオリティに関わらず、とりあえずに単位は問題なく取れます。
しかし、単位の事を考えている人は恐らく1人もいません。これはカルアーツに限らず、たぶん日本でもアメリカでも、美大であればどの大学でも同じ状況だと思いますが、単位が欲しいのではなく、単純に良い作品をつくりたいから皆頑張っています。
課題で取り組んだ作品は、出来が良ければそのままポートフォリオと呼ばれる自分の作品群に入れることができます。このポートフォリオを使って就職活動をするため、少しでも良い作品をつくりたい。単位が取れるかどうかは、もはやどうでも良いわけです。
特に自分のフィルム関連のパイプラインテストやアニマティックについては、皆これが課題であるということすら忘れて一生懸命取り組みました。
少しでも良いフィルムを作りたいというその一心で、納得ができるまで何回でもやり直すので、自ずと時間がかかり、他の課題を圧迫します。それ故、連日睡眠時間が2時間みたいなシャープな生活になるのです。
やはり美大なので、学期末になると制作が立て込んでくるという感じで、なかなか忙しいです。授業を欠席して他の授業の課題をやる人もちらほら出るくらい、みんな追い詰められました。確かに大変なのだけど、筆記試験がないので、必死に暗記する必要がないというのが個人的に嬉しい。
睡眠時間を削ってふらふらになってしまったので、次の学期末はちゃんとスケジュール管理をしないとダメだと猛省しているのですが、単位のためじゃなくて、純粋な制作欲をベースに頑張るというのは、精神的にはとても健康なことだなあと思います。
僕が日本で大学生をしていたころは、何も身に付かなくてもとりあえず単位が欲しいと思って生きている節がありました。楽して単位が欲しいと。今思うと過去の自分は一体何をやっていたんだと、本当に恥ずかしくなります……。
さて、いかがだったでしょうか。アメリカの美大の学期末の特徴と銘打って記事を書いたものの、まず日本の美大の事を知らないので、もしかしたらそれ普通じゃんって内容もあるかもしれませんが、とりあえずカルアーツはこんな感じでございます。
今後もアメリカの美大やカルアーツの特徴をご紹介していきたいと思います!
では!
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カルアーツ アート留学連載
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